塾は子供のゆとりを奪っているか?
疲れるのは家庭と学校
"子どもの生活にゆとリはあるか"などを調べた総理府の「親の意識に関する世論調査」のまとめを読んだ。これによると、親の90%が親子関係に自信を持っていて、子どもに信頼されていることが明らかになったという。さらに、子どもにゆとりがないのは、受験や補習のため。だから、親の三30%は塾通いに否定的とも書かれていた。調査では、"ゆとリ"がないの意味に"疲れている"を含めているようだが、果たして現実には、子どものゆとりをうばっているのは塾通いだろうか。それに、「親子関係に自信あリ--」の答えにも、いささかうなずけないものがある。この点について、統計には他の統計資料を重ねあわせて追ってみる必要があるようだ。
親の誤算
多くの親たちが、数少ない子どもに、理想は高く十分すぎるほどの愛情を注いでいることは確か。立派な子ども部屋一つにも、それはうかがい知れる。あり余るほどのモノを与え、これが教育熱心というなら、日本は、世界一の教育国にちがいない。気になるのは、受ける側の子どもたち。さぞ満足していると思いたいのだが、それは、親の誤算だとする子どもの意識調査結果なら、いくらでもある。
今手元に、同し総理府が実施した「世界の子ども意識調査」がある(やや古いが)。これは、家庭、学校、社会に分けてたずねた満足度調べ。この中で、根が深く、最も不満度が高いのが家庭と親。次いで学校、社会。日本の子どもで家庭に「満足だ」の答えは、わずか37.1%だけ。スウェーデン74.4%、プラジル73.3%、アノリカ72.6%に大差がついている。これだけでも、「親子関係に自信あり」の数字が、早くも薄らいでくる。「大人になどなりたくない」の答えも多く、しかもその理由に、「親やまわりの大人を見ていると、ずるくて自分勝手だから」と出てくるので、このことからも、今回の「子どもに信頼されている」が、ゆらいでしまう。これは、学校生活に対しても同じで、日本の子どもの不満度がどの国の子どもよりも多く45.3%。インド、スウェーデンなどでは、実に90%の子が「学校は楽しく満足」と答えている。
親疲れ、学校疲れ
現代の子どもたちは、親に疲れ、大人に疲れ、学校に疲れ切っている。異常ともいうべき病埋現象が出てきたと、心配して「親子関係学」をまとめた医学博士の稲村博さん。それを裏打ちしているのがNHKの調査結果。サンブルは全国の小学六年と中学二年の子どもたち。
今、一番やりたいことはの問いに「ゆっくり寝たい」が、六年生で四分の一(24%)、中二ではなんと三分の二(36%)。このほか「食欲がない」「夜、眠れない」「疲れやすいので、のんびりしたい」と、高齢者顔負けの声ばかり。「食べ盛り、育ち盛りの子どもには、どんなに遊びほうけても"疲れ"の自覚などないはずなのに…」と、嘆いている稲村博士。これらの理由の一つにも、子どもの本音がいつわりなく語られている。「毎日毎日、親や学校に見張られている感じで気持ちにゆとりがない」「干渉が多過ぎて家も学校も針のムシロ」「服に体を合わせて着ろ的な厳しい校則に息がつまる」。なるはど、やりたいことは我慢、やりたくないことをやらされ堪え難いやり切れない子どもの心が伝わってきて、心ある大人なら、首をうなだれ、うなずくしかない。
塾が避難港
「学校から帰って家に母がいたら、定刻より早くても塾へ逃げ込んだものですよ」と、中学生時代の思い出を新間へ投稿した愛知県三河部のA君(高校二年)。名古屋市の隣接のK市の中学生1400人のアンケ−ト結果にも、A君と同質の思いの子が全体の27.2%も。これらの子どもたちは、家庭内の溺愛、過干渉、過保護からくる押しつけから逃げ出すように、塾へ早出。
「塾は、絶えず何かをさせたがる親や学校とちがって、好きな雑誌の交換会をやったり、わずかな時間だが道草もしたりで、異年齢集団で群れられる子どもミニ社会があったから、ポグは"塾育ち"です」と、屈託なく話してくれたのは、現在、愛知県一宮市で小学校の先生をしているMさん(26)だつた。