徒然日記その192. 「学力」3種類 (8/18)
今回は「学力」について書いてみる。国語辞典の大辞林によれば、「学力」の意味はこう出ている。
【学力(がくりょく)】 学校などにおける系統的な教育を通じて獲得した能力。教科内容を正しく理解し、それを知識として身につけ、その知識を応用して新しいものを創造する力。
当たり前のことが出ているともいえるのだが、現在の日本の中高生の世界では、私は3種類の学力が混在していると考えている。
1つ目は、国語辞典に出ているものそのまま。そして2つ目が、通知表の合計点(内申点)をどれくらいとれるかという力。3つ目は、高校や大学に合格できる力である。つまり、1つ目が「本当の学力」といえるもので、これがあるということは2つ目・3つ目の力も持っているということである。2つ目は、テストで得点できなくても通知表でどれくらいとれるかということである。こんな学力を考えなくちゃいけないのは文部科学省が進めてきたゆとり路線に合わせた通知表のつけ方が生まれたからであるので「文部科学省学力」と言い換えることもできよう。3つ目の学力とは、テストで得点する力のことである。言い換えるなら「テスト得点力」とでもなるか。
このように、「本当の学力」「文部科学省学力」「テスト得点力」と3種類の学力が混在するのが今の日本なのである。それぞれの意味するところは随分異なるのだけれど、「学力」という1つの言葉で一括りにされてしまうので混乱というかボタンの掛け違いがあちこちで起こるのだ。
例えば、「テスト得点力」は高いが通知表が思わしくない生徒や親御さんは、「うちの子は学力はあるのに見込みが悪いから損をしている」なんて文句を言う。しかし考えてみて欲しい。「テスト得点力」=「文部科学省学力」ではないのである。だから「テスト得点力」が高くても「文部科学省学力」があるとは限らない。だから文句を言うのは筋違いとも言えるのであって、文句を言う前に「文部科学省学力」をつけるべきなのである。
また、塾や予備校は「テスト得点力」はつけてくれるが「本当の学力」をつけてくれる所は非常に少ない。なにせ合格させるだけが目的の所が圧倒的に多いのであるから。「テスト得点力」が高いからと言って「本当の学力」が高い保証はどこにもないのである。高校なり大学なりに入って成績が低空飛行するのは「テスト得点力」が高くて「本当の学力」が無い者である。
一番よいのは「本当の学力」をつけることなのであるが、それを身につけられるように教えてくれる所は残念ながら(中学校や高等学校も含めて)とても少ない。そして、ますます少なくなっているようだ。原因は程度の低い塾や予備校である(成績上位者が通うところでも程度の低いところはいくらでもある)。手っ取り早く「テスト得点力」をつけることは、すなわち「本当の学力」から遠ざかるということだからである。1つの問題を幾通りもの解法で解いてみるとか、定理を自分で導出してみるとか、分厚い参考書をひもといてみるとか、こういう自分の頭を使ってじっくり考えることは時間がかかるから避けさせられてしまうのである。裏技で一発解答とか、こういう場合はこう置き換えろとか、全て他人が開発したものを使うことを教え込まれる。これじゃあ将来は暗い。
とくに最近気になるのは、成績最上位層にそういう者が増えてきたことだ。成績最上位層がそういう程度の低い塾に通うからである(成績最上位層を囲い込もうとする程度の低い塾が増えたともいえるか[脚注1])。また、「文部科学省学力」が真の学力だと勘違いしている者も実に多い。そりゃ通知表がいいのだから仕方ないか。どちらにしても大問題である。これでは、将来の日本を引っ張る人材が育っていかないのであるから。
[脚注1] 成績最上位層がなぜ塾に通わなくちゃいけないのだろうか?公立高校受験くらい自分でこなせないのだろうか?教科書以外からは出題されないのにね。
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